前回、ゴルフスイングを考える上で、基本的には次の3つの知識のバランスが必要と話しました。
- ボールを打つ道具であるクラブの物理学
- クラブを動かす人間の身体運動学
- 人間の体を無意識に制御する心理学
この中で、まず初めに3の「人間の体を無意識に制御する心理学」についてお話しします。
よく「左右のOBゾーンを不安に感じて慎重に打ったつもりが、逆に身体が動かなくてティーショットが曲がり最悪だった!」とか、プロの試合で優勝が決まるパットで手が痺れてはずした!」とかありますよね。このように人間の体の動きは感情に左右されます。これは一般に脳の中で理性を司る部分、感情を司る部分、および運動を司る部分が分かれており、それらが相互に影響し合っているからだと言われます。これに関しては機会があれば後日に詳しく説明しますが、本日の主題は「みなさん、自分のスイングは自分の意識で制御しているでしょうか?」ということです。人間はほとんどの人が自分の行動は自分で制御、コントロールしていると思っています。でもそれは本当でしょうか?
今から40年ほど前の1980年頃にリベットという研究者が、被験者の頭に脳波を測定する装置を装着した状態で、被験者の腕を自分の意思で動かしてもらい、その腕を動かす意識の部分が活動(脳の電位の変化をモニタリング)した時間と、その腕を動かす指令を出す脳の運動部が活動した時間、およびその腕が動いた時間とを特殊な時計で計測しました。当然のことながら、一般常識から考えると、意識が指令を出してから脳の運動部が活動し、そしてその運動部からの信号が神経を伝わるのに要した時間の後に腕が動くと考えられます。
ところが、その結果は驚くべきものでした。たしかに腕が動いたのは脳が活動した後でしたが、なんと脳の意識部分が活動したのは、腕を動かす指令を出す脳の運動部が活動した0.3秒も後だったのです。つまり最初に脳の運動部が活動し、その0.3秒後に「腕を動かそう」という意識の部分が活動し、そしてその意識の0.2秒後に実際に腕は動いたのでした。
「えっ!自分の腕は、自分が動かそうとする意識以前に既に動くことが予定されていたの?」
この結果の解釈に、心理学や脳科学ではいろいろな議論がおきました。そして「意識」に関して、いろいろな説が湧き上がりましたが、主な説は「人間の脳はいくつもの担当部分に分かれていてそれぞれが1つの”意識”の統括で制御されているのではなく、それぞれの担当部分の活動が集まって1つの”意識”を作り出しているというものです。
さて、この議論は膨大なのでやめますが(興味ある人は「ユーザーイリュウジョン 意識という幻想」(紀伊国屋書店)を読んでください)、ここで私が何を言いたいのかというと、0.2〜0.3秒で終わるゴルフスイングを脳の”意識”でうまくコントロールできるのかということです。それはかなり無理というか、スイングの途中で”意識”で修正しようとしてもいわゆる「手遅れ」です。人間の運動のなかでの「反射神経」と表現される早い動きは脳の意識の部分を介さないで行われます。つまりゴルフスイングを改善するには、まずは”意識”が作用可能なゆっくりとした動きで修正する必要があるということかもしれません。
追記
最近見た上野陽向プロのレッスン記事の中で「 スイングチェックは、体とクラブの動きを確認できるスピードでなければ意味がありません。軌道を確認しながらゆっくり行うと、徐々に悪いクセを違和感として把握できるようになります。」と書かれていましたね。
2021.3.2
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