「 ゴルフ」4 でのクラブの物理学についての話を進めたいのですが、そのためには「 ゴルフ」3で述べたクラブを動かす人間の身体運動学について、もう少し述べておく必要があります。理由は、「 ゴルフ」3でも述べたように、クラブという道具をうまく活用できるようにするためには、身体が適応して動く必要がありますが、しかし人間の筋肉が通常の機械とは大きく違います。よくクラブの宣伝番組とかでロボットがクラブでボールを打つシーンがありますが、しかしながら、人間の筋肉はそう単純ではありません。その理由は大きく2つあると考えます。
1つ目は、人間の先天的な筋肉制御プログラムにゴルフのスイング動作は含まれていないということです。人間の腕や足には、関節を伸ばすための伸筋と曲げるための屈筋が共存しており、それらが調和して身体の運動を制御していますが、しかし自分の意識で特定の筋肉だけを働かすことはできません。機械であればそれぞれのモーターを個別に制御できますが、人間はそれができません。たとえばリンゴを手に取りたいと意識すれば、腕の各筋肉がその意思に沿うように連動してそれを実現します。どの筋肉を伸ばしてとか、どの筋肉を引っ張ってとかは考えずともできます。機械のように個々にプログラムしなくてもできるのです。人間が生きていくために必要な動作である「物を投げる動作」や「走る動作」の基本のプログラムは訓練しなくても人間は先天的に習得しています。しかし「ゴルフのスイング動作」のように不自然な動作はそこには含まれていません。したがって、頭で「遠くに飛ばしたい!」と意識すると獲物に向かって槍を投げるための脇がひらく先天的な動作が加わったり、「強くボールを打ちたい!」と意識すると腕に力こぶを作って肘を曲げる無意識の動作が連動します。これがスイングを乱します。
2つ目は、人間の筋肉構造はクラブを強い力で速く振る構造にはなっていないことです。人間が生きていくために必要な動作は、経験や訓練によって無意識にプログラムされていると言いましたが、別の言い方をすれば、生きていくのに必要な動作に適しているように筋肉は配置され作用します。例えば人間の腕や足は強大な力を出す時は遅い挙動で、逆に早い挙動の時は小さい力しか出せないようになってます。例えれば、車の始動のローギアと高速のハイギアみたいなものです。ということはクラブを常に強い力で速く振る構造にはなってなっていません。もし皆さんが重い棒と軽い棒を振った場合に、速く腕を振れるのはどちらの方でしょうか?おそらく軽い棒の場合でしょう。理由は棒の重さを支える必要がないため腕に力が入らないからです。腕に力が入ると、その筋肉が速いスイングを阻害します。しかし、実際にクラブを握ってヘッドの重さを感じると条件反射で力が入ります。増して飛ばそうという意識が力をさらに注ぎ込みます。そうすると腕はローギアに入ってしまい、速い振りは不可能になります。もしボールを打つ前にクラブを逆さにもって素振りをすれば腕に力が入らず、速いスイングを腕に記憶させることができます。
では飛ばすためには軽いクラブがいいのか? そう単純にはいきません。なぜならヘッドスピードが上がっても、ボールの初速にはつながらないからです。ヘッドがボールに衝突してボールが飛び出す際の、ボールの初速を決めるのは物理でいうところの運動量保存の法則です。ここでいう運動量とは質量(重さ)╳速度(スピード)のことで、ヘッドのスピードが速くてもボールより軽いヘッドでは、ボールの初速はヘッドスピードより遅くなってしまいます(通常のクラブではボール初速はヘッドスピードの約1.5倍といわれる)。逆に重いクラブはボールの初速がヘッドスピードの2倍以上になるかもしれませんが、重すぎて加速させられずヘッドスピード自体が半分以下になってしまっては何の意味もありません。
つまり、ボールの初速を上げるためには、クラブヘッドの運動量を最大にできるような、クラブ重量と人間筋肉のマッチングを探る必要があります。加えて、腕に力が入らないようにクラブを握る、つまり脳に力を要求しないグリップの握り方や強さが重要です。それを理解した上で、次回以降はクラブはどういうメカニズムでボールを飛ばすかということをを考えてみましょう。